2026-10-24

改正皇室典範が施行 ―― 10月24日から変わること、変わらないこと
きょう2026年10月24日、皇室典範等の一部を改正する法律が施行されます。7月17日に成立し、24日に公布された法律で、附則にはこう書かれていました。
この法律は、公布の日から起算して三月を経過した日から施行する。 ――皇室典範等の一部を改正する法律 附則第1条
公布から3か月。その日が、きょうです。この日に、皇族の数は変わりません。皇位継承順位も動きません。 新しい条文が実際に働き始めるのは、次に内親王・女王が結婚するときと、養子縁組が行われるときです。つまり施行日は、「何かが起きた日」ではなく、起こりうることの入り口が開いた日です。
「公布」と「施行」は違う
法律には、成立、公布、施行という三つの段階があります。成立は国会で可決されたこと(2026年7月17日)、公布は国民に知らせるために官報に載せたこと(2026年7月24日)、施行は実際に効力を持ち始めること(2026年10月24日)です。公布からすぐに効力を持たせないのは、準備の時間を取るためで、今回の改正でも、戸籍の届出の様式など、法務省令で定めることになっている部分があります。なお、附則第1条にはただし書があり、政令への委任(附則第5条)と、行政手続法の改正(附則第7条)は、公布の日から施行されていました。
この法律は、公布の日から起算して三月を経過した日から施行する。ただし、附則第五条及び第七条の規定は、公布の日から施行する。 ――同法 附則第1条
この日に「起きないこと」

報道の見出しだけを読むと、何かが今日から変わるように見えます。けれど条文に沿って見ると、この日には「起きないこと」が三つあります。一つ目は、皇族が増えないことです。養子を迎える制度(新設の第38条)は、迎える側が決め、皇室会議の議を経て、はじめて成立します。施行されただけでは誰も皇族になりません。二つ目は、皇位継承順位が動かないことです。継承資格を定めた第1条、順序を定めた第2条は、一文字も改正されていません。加えて、養子になった本人については、こう書かれています。
養子皇族男子(前項の規定により皇族となつた皇族男子をいう。……)については、第二条の規定は、適用しない。 ――改正後の皇室典範 第38条第4項
第2条は継承の順序を定めた条文です。それを適用しないということは、養子で皇族になった本人は、皇位継承の順序に入らないということです。三つ目は、現在の皇族の方々の身分が、きょう何も変わらないことです。第12条・第13条の削除は、「結婚したときに皇族の身分を離れる」という規定をなくすものです。結婚という出来事が起きて、はじめて意味を持ちます。
施行後に変わる、内親王・女王の結婚
皇室会議の議が必要になる
結婚をめぐる最初の変更は、皇室会議の関わり方です。これまで皇室会議の議にかけられるのは立后と皇族男子の婚姻でしたが、改正前の第10条には、こう書かれていました。
立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。 ――改正前の皇室典範 第10条
改正法は、この「皇族男子」を「皇族」に改めました。内親王・女王の結婚にも、皇室会議の議が必要になります。 皇室会議は、内閣総理大臣、衆参両院の議長・副議長、宮内庁長官、最高裁判所長官と裁判官1人、そして皇族2人の計10人で構成されます。結婚の相手について、この会議が議を経ることになります。 ただし、例外が一つ加えられました。
ただし、第十四条第一項の者でその夫を失つたものと天皇及び皇族以外の男子との婚姻については、この限りでない。 ――改正後の皇室典範 第10条ただし書
皇族以外から皇室に入られた妃が夫を失われた場合、その方が一般男性と結婚するときは、皇室会議の議は要らない、という意味です。
夫と子は、皇族になりません
ここは条文の読み方に注意が必要です。改正法は「夫は皇族としない」とは書いていません。書いているのは、夫と子の戸籍を作るということです。
内親王又は女王と婚姻した天皇及び皇族以外の男子の戸籍は、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに編製する。 ――改正後の「皇族の身分を離れた者等の戸籍の取扱い等に関する法律」第5条
皇族に戸籍はありません。皇統譜(こうとうふ)という別の帳簿に記録されます(皇室典範第26条)。戸籍を作ると定めたということは、夫と子は皇族ではないということです。家族のうち妻だけが皇族で、夫と子は一般国民。この形は、これまでの皇室になかったものです。
住民票はできる。ただし国民投票の名簿には載らない
もう一つ、あまり知られていない改正があります。住民基本台帳法第39条は、適用しない人を定めた条文で、皇族は住民票を持ちません。改正法は、ここに例外を書き加えました。一般男性と結婚した内親王・女王は、住民基本台帳法の適用を受ける(=住民票が作られうる)ことになります。ただし、同条に加えられた第2項により、細かい扱いは政令で特例を定めることができるとされ、その政令のうち住民票にかかわる部分は、9月11日の閣議で決まりました。住民基本台帳法施行令の改正で、結婚後も皇族である内親王・女王の住民票には、「氏名」の代わりに「名」だけを、「戸籍の表示」の代わりに「内親王等住民である旨」を記載します(内閣官房の資料による)。
そして、ほとんど報じられていない改正が、もう一つあります。日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)の改正です。同法第22条は、国民投票の投票人名簿に登録される人を、次のように定めています。
投票人名簿の登録は、国民投票の期日現在で年齢満十八年以上の日本国民で、次のいずれかに該当するものについて行う。 一 国民投票の期日前五十日に当たる日(以下「登録基準日」という。)において、当該市町村の住民基本台帳に記録されている者 ――日本国憲法の改正手続に関する法律 第22条第1項(改正前)
改正法は、この「者」の下に、結婚した内親王・女王を除くという括弧書きを加えました。住民基本台帳に記録されても、投票人名簿には登録されない、ということです。住民票はできる。けれど憲法改正の国民投票には加わらない。皇族としての立場を保ったまま、制度の上では一般国民の側に片足を置く――その線の引き方が、この二つの条文に表れています。皇室に選挙権はあるのかという記事で見たとおり、公職選挙法のほうは、今回の改正で手が入っていません。

今の内親王・女王には、「離れる」道が残された
改正法の附則には、見落とされがちな規定があります。経過措置です。この法律の施行の際に内親王・女王である方が、結婚と同時に皇族の身分を離れようとするときの扱いが、次のように定められています。
この法律の施行の際における内親王又は女王(以下「施行時内親王等」という。)が天皇及び皇族以外の男子と婚姻する場合において、当該施行時内親王等が当該婚姻と同時に皇族の身分を離れようとするときは、皇室典範第十一条第一項の規定にかかわらず、皇室会議の議によることなく、その意思により、皇族の身分を離れることができる。 ――皇室典範等の一部を改正する法律 附則第2条
きょうの時点で内親王・女王でいらっしゃる方は、結婚のときに二つの道から選べる、ということです。一つは皇族として残る道で、結婚に皇室会議の議が必要になり、夫と子は皇族になりません。もう一つは皇族の身分を離れる道で、皇室会議の議は要らず、ご本人の意思で決められます。後者の場合の一時金についても、附則は改正前の規定をそのまま使うと定めています(附則第3条)。
本人の意思で決められるという点は、大きいと思います。改正は「結婚しても残れる」制度を作りましたが、同時に、現在皇室におられる方に「残らない」選択肢も残しました。制度が人生の形を一つに決めてしまわないように、という配慮だと読めます。
養子縁組は、誰がどんな条件で迎えるのか
新しく加わった第6章「養子皇族男子」も、施行によって使えるようになります。迎える側は、親王・親王妃・内親王・王・王妃・女王です。皇嗣と皇嗣妃は除かれています(第38条第1項の括弧書き)。迎えられる側の条件は、皇室典範による皇族男子であった者の嫡男系嫡出の子孫であること、現に皇族でない15歳以上の男子であること、そして配偶者と子がないことです。さらに、皇室会議の議を経ることが必要で、民法第798条(未成年者を養子にするときの家庭裁判所の許可)は適用されません(第38条第2項)。そして、皇族になる時点は、こう定められています。
縁組による養子は、当該縁組の時から、皇族となる。 ――改正後の皇室典範 第38条第3項
なお、この「縁組の時」がいつなのかは、条文には書かれていません。宮内庁は10月22日、縁組の成立時点は改正典範に明記されていないとして、儀式を行うことで成立すると解されると説明し、養子が皇族になったことを示す儀式を検討していると明らかにしました(共同通信の報道による)。
本人は皇位継承の順序に入らないことは、先に見たとおりです。一方、その子孫については、実方(生まれた側)の系統によって第2条・第6条を適用すると書かれています(第38条第6項)。つまり、本人は入らないが、その子は入りうる。ここが制度の要になっています。もう一つ、養子皇族男子である王については、次の規定が置かれています。
養子皇族男子である王については、第十一条第一項の規定は、適用しない。 ――改正後の皇室典範 第38条第7項
第11条第1項は、本人の意思で皇族の身分を離れることを認めた規定です。それを適用しないということは、養子として皇族になった王は、自分の意思では皇籍を離れられないということになります。入る道は開かれ、出る道は狭い。制度としてそう設計されています。
お金の計算も変わる
皇族費の計算式も、今回あわせて改められました。皇族費を定めているのは皇室典範ではなく皇室経済法ですが、今回の法律は典範だけでなく、その第2条で皇室経済法も改めています。ここはほとんど報じられていません。改正前の皇室経済法第6条第3項は、こう定めていました。
一 独立の生計を営む親王に対しては、定額相当額の金額とする。 …… 三 独立の生計を営む内親王に対しては、定額の二分の一に相当する額の金額とする。 ――改正前の皇室経済法 第6条第3項
改正法は、第1号の「親王」の下に「及び内親王」を加え、第3号(独立の生計を営む内親王を2分の1とする規定)を削りました。つまり、独立の生計を営む内親王は、親王と同じ額になります。定額は皇室経済法施行法第8条で「三千五十万円」と定められています。計算式に当てはめると、独立の生計を営む内親王の皇族費は、これまでの1,525万円から、3,050万円に変わることになります。女王の場合は、親王・内親王に準じて算出した額の10分の7という規定が残りますから、2,135万円という計算になります。

結婚して皇室に残るなら、その方は一家の生計を営むことになります。男性の皇族と同じ額にそろえた、という改正だと読めます。なお、皇族の身分を離れる際の一時金についても、独立の生計を営む皇族の年額の10倍を上限として、皇室経済会議の議を経て定める、という形に整理されました。
30年ごとに見直す、という約束
附則には、将来に関わる規定も置かれています。検討を加える際の見直しの間隔について、こう書かれています。
前項の規定により検討が加えられるに当たっては、皇族の数の確保の状況等を勘案し、必要があると認められるときは、三十年ごとに見直しが行われるものとする。 ――皇室典範等の一部を改正する法律 附則第6条第2項
30年という区切りが法律に書き込まれたことになります。今回の改正で終わりではない、という前提が、法律自身の中にあるわけです。もう一つ、地味ですが押さえておきたい改正があります。行政手続法第4条第4項第2号に、「皇統譜」の下に「その他天皇及び皇族の身分関係に関する事項」という言葉が加えられました。これは先に見たとおり、公布の日(7月24日)から施行されています。この号に当てはまる命令等は、意見公募手続(パブリックコメント)の対象になりません。これから作られる法務省令などは、国民の意見を集める手続きを経ずに定められることになります。
別の見方
この改正の受け止め方は、一つではありません。皇族数の確保という目的に対して、効き目が薄いという見方があります。養子縁組が実際に行われなければ、皇族は増えないからです。女性皇族が残る制度は不十分だという意見もあります。夫と子が皇族にならないため、その家がどういう形になるのか、条文だけでは見えにくいという指摘です。
逆に、踏み込みすぎだという立場もあります。旧宮家の男系男子を養子に迎えることは、門地による差別を禁じた憲法第14条との関係で議論があります。いずれも条文の読み方の違いではなく、制度をどう評価するかという立場の違いです。ここでは、条文に書かれていることの整理にとどめます。
筆者の考え
施行日というのは、地味な日です。式典があるわけでもなく、目に見える変化も起きません。けれど筆者は、この改正が一人ひとりの人生の形に関わるものだと考えます。条文を読むと、結婚するときに皇室会議にかかること、夫と子は皇族にならないこと、住民票はできるが国民投票には加われないこと、自分の意思で皇室を離れられる人と離れられない人がいることが分かるからです。
制度は、人の暮らしの細かいところまで決めます。 そしてその細部は、たいてい報じられません。だからこそ、条文を開いて確認しておく意味があると思います。30年ごとの見直しという規定も、そのことを裏返しに示しています。今の形が最終形ではないと、法律自身が書いているのですから。
参考・出典
- 皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)本文|衆議院 ―― 第1条(皇室典範の一部改正・第9条・第10条・第12条・第13条・第14条・第15条・新第38条)、第2条(皇室経済法の一部改正)、第3条(戸籍の取扱いに関する法律の一部改正)、第4条(住民基本台帳法の一部改正)、附則第1条〜第8条
- 皇室典範(昭和22年法律第3号)|e-Gov法令検索 ―― 第1条・第2条・第10条・第11条・第26条(皇統譜)・第28条(皇室会議の組織)
- 皇室経済法施行法(昭和22年法律第113号)第8条|e-Gov法令検索 ―― 「法第六条第一項の定額は、三千五十万円とする。」
- 皇室経済法(昭和22年法律第4号)第6条|e-Gov法令検索 ―― 改正前の第3項第1号「独立の生計を営む親王に対しては、定額相当額」、同項第3号「独立の生計を営む内親王に対しては、定額の二分の一」
- 住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)第39条|e-Gov法令検索 ―― 適用除外の規定
- 日本国憲法の改正手続に関する法律(平成19年法律第51号)第22条|e-Gov法令検索 ―― 投票人名簿の被登録資格
- 行政手続法(平成5年法律第88号)第4条|e-Gov法令検索 ―― 第4項第2号(意見公募手続の適用除外)
- 「皇統譜令の一部を改正する政令」及び「住民基本台帳法施行令の一部を改正する政令」の概要|内閣官房(2026年9月11日) ―― 内親王等住民の住民票の記載事項の特例(「氏名」→「名」、「戸籍の表示」→「内親王等住民である旨」)、施行は令和8年10月24日
- 養子皇族、縁組成立に新儀式 宮内庁検討、改正典範24日施行(共同通信)|Yahoo!ニュース(2026年10月22日) ―― 縁組の成立時点は改正典範に明記されておらず、宮内庁は儀式を行うことで成立すると解される、との説明
- 民法(明治29年法律第89号)第798条|e-Gov法令検索 ―― 未成年者を養子とする場合の家庭裁判所の許可
参考書籍
この記事のテーマを、もっと深く知りたい方へ。
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